先日、体験で来られた方がこれまで太極拳をやってこられたのだが、
肩がこると仰る。
私は深く頷いた。
私もかつてそうだったからだ。
太極拳で大事なことはゆるむこと。
だが検定向けの太極拳は形や動きを審査されるからどうしても形に拘らなくてはならない。
それゆえに正しい形や動作が出来るよう徹底的に指導される。
「肩を上げるな!」
と怒鳴られると余計に緊張して肩が硬直してしまう。
問題は指導法ではなく、指導する時の伝え方だと私は思う。
だから私の場合、太極拳に限っては指導する時叱らない。
叱って良くなるなら叱るが、逆効果だと思うからだ。
ゆるめることを覚えて欲しいから、やわらかい雰囲気づくりを常に心がけている。
それに私自身もそういう雰囲気を好む。
空手を習っていた時代、正しく動けていないと後ろから強く蹴り飛ばされたことがある。
それ以来私は蹴られることの恐怖から余計に気持ちが萎縮してしまい、
そして徐々に空手への意欲が薄れていった。
蹴られたってわからない。
なにが良くなかったのかを教えてもらわなくては。
私が個別指導する時は丁寧に動作を教える。
例えば直すべき点がたくさんあったとしても全部指摘することはない。
人それぞれ体型や生活習慣が異なるように、私もまたその方に適した指導を心掛けている。
その場で見て修正すべき点の優先順位を決め、一番大事なことから伝えるようにしている。
そして、型を全員で通す時は、フォームや動作よりもゆるめることを優先して演武している。
もし私が試合や検定のような演武をしていたら、ついてくる方も同じようにしてしまうだろう。
それでは太極拳にならないのだ。
ゆるめることを教えるには、自分がゆるんだ演武を見せればいい。
太極拳で肩がこるなんて絶対あってはならない。
水の中で泳ぐように空気の中でやわらかく泳ぐように演武することで体全身がゆるみ、
全身の血行がよくなり、それが病気をしない健康な身体づくりにつながる。
まず健康にならなくては本物の太極拳にはなっていかないのだ。