今は都合により休会しているが、それまで通っていた大阪の道場では日本で初めて台湾から伝わったといわれる気功と太極拳、それに形意拳と八卦掌を教えている。
この道場では、気功から始めることが鉄則で、逆に気功をしないものには技を教えないという伝統のスタイルを徹底的に貫いている。
気功歴10年の私もそれはとても頷けるものである。
最初の40~50分は気功を行い、
その後に台湾から伝わった太極拳を個別練習する。
1~2年を経て太極拳を終えた者は形意拳へと進むのだが、この道場ではすぐには型(套路)を教えてくれない。
まずは五行拳のうちの3本だけを1年以上かけて練習する。
三体式をたっぷり時間をかけて行い、それから跟歩(こんぽ)なしで劈拳(へきけん)を行う。
まずは正確に技を覚えるのだ。
この時点では劈拳のみで転身はまだ教えてもらえない。
ひたすら、劈拳を太極拳の足運びのように跟歩なしの進歩(しんぽ)で行う。
正直飽きる。
だが、これをクリアしなければ決して先には進めてもらえない。
何を目指しているかと言うと、ここでは本物の強さを身に付けることを教えようとしているのだ。
形だけの形意拳ではなく、内家拳最強と言われる形意拳の本物の強さだ。
だから、師匠は弟子に言う。
「決して技を使うな」と。
何故なら、その気なくとも相手を殺してしまうことになるからだ。
毎日、辛い三体式を泣くような思いで続け、
そして来る日も来る日も同じ劈拳(へきけん)、鑚拳(さんけん)、崩拳(ほうけん)だけをやらされる。
生徒の中には不満の声を漏らすものもいるが、その間に辞めていく者もいれば、
辛抱して続ける熱心な生徒もいる。
私はその脱落者の一人だ。
まあ、その理由はお恥ずかしながら道場に通うための交通費と受講費によって生活を圧迫し始めたからだが。。
いずれも丸々1年間、劈拳、鑚拳、崩拳の3本だけしかやらせてもらえなかった。
しかし、ようやくその意味が解ってきた気がする。
やはり先生は、生徒に本当に強くなって欲しいと思っていたのだと。
決して使うことのない技を何年もかけて練習する。
もし使うことがあるとすれば、それは刃物や拳銃等の凶器を向けられた時だろう。
その時こそ何年もの間辛抱して積み上げてきた技を炸裂させる瞬間になると思う。
実際、先生に拳を向けられた時は、恐ろしいほどの恐怖感を感じた。
単なるパンチではないのだ。
何年も何十年も空を突いてきた磨きの掛かった拳だ。
目の前に来るだけで、身動きがとれなくなってしまう。
丹念に丹念に磨き上げられた切れ味抜群の日本刀を目の前まで切りつけられたような感じだ。
形意拳の型もカッコイイと思うし、正直憧れたけど、
形意拳の本来の意味から考えたら、五行拳だけで十分だと思うし、
いや、その五行拳の中の3本だけでも完全に使えるようになれば向かうところ敵なしだと思う。
多分、これは実際に形意拳熟練者の拳や掌の寸止めを経験しないと解らないと思う。
現に師匠も普段は型を行わず3本だけしか練習しないと言っていた。
だから、私の中では形意拳=五行拳なのだ。
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人それぞれ様々な捉え方や考え方があると思うが、
あくまでも私が経験した形意拳で感じたことです。