2020年11月1日日曜日

未知なる力

当会では伝統稽古に則り毎回稽古で散手(技の用法)を行っていますが、その理由は「結果から原因を知る」ということを目的としています。

ゴールが見えなければ走る意味も解らないし、走ることすらしようとは思わないでしょう。
太極拳も同じで、毎回稽古で行っている気功や套路、推手はどのような目的で行っているのか解らなければモチベーションも上がらないでしょうし、太極拳の修得にも時間が掛かってしまいます。

太極拳で身に付く力は、通常のスポーツやトレーニングではほとんど身に付かない力です。
これを「勁力」と呼びます。

人間は20代半ば過ぎると否応なく老化が始まり、それに伴い体力が衰えて行きます。
体力が衰えると引力に勝てなくなり、転倒したり、立つことすらままならなくなります。

太極拳で身につける力は、引力に勝つ力ではありません。
引力と同化する力です。

難しく考える必要はありません。
指導者の下で正しく太極拳の稽古を行っていれば自然と身に付く力です。

しかし、指導されていることを無視し我流で稽古すると勁力を身につけるどころか思わぬ怪我をしたり体を傷めることもあります。
これは太極拳に限ったことではなくどのような運動、スポーツでも同様です。

さて、太極拳で身に付く力はなぜ他のスポーツやトレーニングでは得られないのでしょう?

それは太極拳の動きに理由があります。
太極拳をイメージする時、「ゆっくり動く」と思い浮かびませんか?

気づかれたかもしれませんが、この「ゆっくり」に秘密があります。

太極拳の他に太極拳ほどゆっくり動くスポーツやエクササイズが他にあるでしょうか?

普通で考えるなら誰もが欲しい力は、大きな力とスピードだと思います。
しかし太極拳は真逆のエクササイズを行います。

しかも熟練すればするほどゆっくり動くことを自分自身に求めるようになります。
それはゆっくり動くことによって得られる未知なる力に気づくからでしょう。

勁力には筋力のように限界がありません。

とはいえ勁力は人を傷つけるための力ではありません。
自分を守るための力です。

最近の車にはそのほとんどにエアバッグが搭載されています。
これによって運転者や搭乗者の死亡事故は激減しました。
過去を振り返ると、50㏄バイクはヘルメットなしでも乗ることが出来、車はエアバッグなど搭載されておらず、シートベルトさえ義務付けがありませんでした。
今から考えると無謀だったと思わざるをえません。

しかし人間はどうでしょう?

車に跳ねられても人間にはエアバッグがありません。
だから車道に出る時は、左右確認を行い、車が走ってこないかどうか十分確認する必要があります。
もしよそ見でもして、車に跳ねられでもしたら、重傷を負うか、或いは死亡に至ってしまうでしょう。

太極拳で身に付く力は、危険をいち早く察知し回避する力です。
同時に体が丈夫になり、怪我の回復が早くなります。
誰もが欲しい力だと思います。

太極拳を始められる方のほとんどが40代前後の方です。
理由は明確です。
体力の衰えを感じる世代だからです。
20代30代は無理が効きますが、40代になると無理が効かなくなります。
そこで本能的に体を動かすことをしなければという衝動に駆られるようになります。

武術は本来最高の養生法でもあります。
その中でも太極拳は最も健康効果が高いと世界中で認められています。

勁力は老化に伴う体力低下を補ってくれます。
そして、その力は次第に筋力以上の力を出せるようにまでなります。
その力は決して暴力に使うのではなく、自分自身を守るために使います。

なぜなら24時間365日、常に自分を守ってくれるのは警察でも警備会社でもなく自分自身だからです。