2023年3月31日金曜日

手を打つ動作、これはなに?

左掌に右拳を打ち付ける動作がありますが、
これは一体何なんでしょう?

当会では形意拳も行っていますが、
連環拳(れんかんけん)や八勢(ぱーせい)、
雑色捶(ざっしきすい)にこの動作があります。

陳式太極拳の型にも似たような動作がありますね。

ある陳式太極拳の先生に尋ねたところ、
「打つ動作ではなく打つ前の動作が技である」と教わったこともありますし、
「力強さを強調するためのアクセント」とコメントしている方もいました。

陳式太極拳に関しては私は門外漢なので解りませんが、
形意拳でのこの動作の意味は以下の通りです。

この動作には3つの意味あります。

一つは技です。

どんな技が想像できるでしょう?
想像内かもしれないし、
想像外かもしれません。

特に内家拳では敵を欺くため、あえて技を隠します。

掌と拳を打ち付けていますが、
実際このように打ち付けるのでしょうか?

もしかしたらある程度間隔があったり、
打つ位置がずれているかもしれません。
いずれも恐ろしい技であることには違いありません。

もう一つは鍛錬法です。

ボクシング等ではサンドバッグを打ったりして練習しますが、
太極拳や形意拳に関してはそのような練習をすることはあまりありません。

そもそも発勁動作は気の爆発なので、
サンドバッグを強く打てるようになることとはあまり関係がないのです。
ですから内家拳では瓦割りなども行いません。

物を破壊する力ではなく、細胞を破壊する力が内家拳の発勁なのです。

先程、発勁は気の爆発だと説明しました。

そして、気のパワーは丹田力に比例します。
なので両手を強く打ち付けることはしません。

アメリカンクラッカーをご存じでしょうか?

紐で繋がった両端の玉を打ち付け合うおもちゃですが、
あの原理に似ています。

玉には当然ながら動力はありません。
動力源は紐を持った指にあります。
最初は玉同士が下でコンコンぶつかり合いますが、
手の振りを大きくしてやると今度は上下で球がぶつかり合います。

手を玉だとしたら、腕は紐です。
そして動力源は丹田になります。

いわば、この動作は丹田力を鍛える方法の一つとして捉えることが出来ます。

3つ目は練度確認です。

内家拳では勁力を重視します。

ところがやっかいなことに、
勁力が上がってきたかどうかは自分では解らないものなのです。

師に「勁力上がったな」と言われても
「そうなのかな?」といったぼんやりした感じです。
勁力は実感がないのです。

だから「勁力を出すぞ!」という意識で出せるものではありません。

あえてあるとしたら
威力を出そうという雑念を払い、無となり、空となることです。

もし勁力が上がったら、
両手を打った瞬間にそれなりの手ごたえを感じるはずです。
ボールの威力があることを球威と言いますが、
左掌で受けた右拳がズッシリと重く感じたら、
勁力が上がったと思って間違いないでしょう。

両手を打ち合う動作。
あれは演出でもパフォーマンスでもありません。

内家拳では大変重要な動作なのです。





2023年3月30日木曜日

太極拳は動画だけでは学べません

今までも何度か伝えてきたことですが、
動画サイトで太極拳を覚えることは出来ません。

覚えたと思ってるのは覚えたつもりになっているだけで、
中身のない真似事に過ぎません。

特に男性は誰よりも先に進みたいという気持ちが強い傾向があり、
動画サイトなどを見て予習してくる人もいますが、これもやめたほうがいいです。

「出来てるつもり」になることが一番遅れをとることだからです。
今までそんな人を数えきれないほど見てきました。

本格的に長年武術をやっている人であれば、動画からある程度盗むことも出来るでしょう。
しかし動画は間違いを指摘してくれません。
これこそが実力が伴わない真似事の域を超えることが出来ない理由です。

先生の指導の下で練習している人ですら、注意したことを守らず膝や足首を痛める人がいるほどです。
それを動画で正しく動くなど無理でしょう。

動画で本当に太極拳を覚えたと思っているのなら、
熟練された先生と推手をやってみるといいでしょう。
組手をやってみるのもいいでしょう。

全く歯が立たないどころか、
紙っ切れのように吹っ飛ばされるのがオチです。

私は幸運にも数々の先生方と手合わせさせて頂いたことがありますが、
真似事か、伝統の修行を積んでこられた先生か、手を触れた瞬間に解ります。

その違いは紙と岩です。

長年正しい修行を積んでこられた先生方は動きに無駄がなく、隙がありません。
逆に真似事の輩は全てにおいて隙だらけです。

動画サイトを見る時間があったら立禅をやりましょう。
その方がよほど早く上達します。

稽古に参加したら先生の手本や指導に集中しましょう。

武術に近道はありません。
日々修行あるのみです。



2023年3月24日金曜日

牽制しない威嚇しない

動物や昆虫等、生き物の世界を見ていると
弱い生き物こそ牽制したり威嚇したりします。

強い生き物はしませんし、
されても相手にしません。

太極拳では相手を怯ませるようなことをあえてしません。
相手を理解し受け入れます。

もし相手が攻撃してきたら、やわらかく受け入れそっと技を掛けます。
痛みはありません。

すると相手はそれまであった闘志がどこかに消えてしまいます。

そのような太極拳に到達することが当会の目的です。

敵視は敵視、
力は力を呼ぶだけです。

そもそもこれら自体が自分が勝手につくり上げた妄想なのかもしれません。

相手を見る。
そして理解する。

太極拳の考え方です。



2023年3月23日木曜日

発勁力の開発

昨日の武術班では、
纏絲勁(てんしけい)
螺絲勁(らしけい)
抽絲勁(ちゅうしけい)

これらの違いをレクチャーしました。

これらを説明するのにどれだけ言葉を並べても理解するのは不可能でしょう。
実際に体験してみるしかありません。

流派によって解釈が異なると思うので、あくまでも私が学んだ理論となります。

纏絲勁(てんしけい)は相手の力を無力化する力。
螺絲勁(らしけい)は螺旋の動きによって発勁を増大させる力。
螺絲勁(ちゅうしけい)は丹田と気のパワーを用いた螺旋の力。

M子さんの腹に触れた状態から気を打ち込みます。
触れた状態で打つことを暗勁(あんけい)と呼びます。
打たれたM子さんはその場で蹲り
腹だけでなく胸から下腹部に至る広範囲にその衝撃を感じたようです。

Uさんには思いっきり腹筋に力を入れてもらいました。
まず拳を腹に触れた状態で気を打ち込みます。
その瞬間体が後ろへ崩れ、それ相応の衝撃を感じたようです。

しかし腹筋に力を入れた状態であればより効果的な方法があります。
それが寸勁です。
一寸(約3センチ)の位置から打ち込みます。
どれほど腹筋に力を入れてもこの勁は腹を貫通しその衝撃は背中まで伝わります。

Uさんの体は大きく崩れ、
そのまま蹲りしばらく立てなくなってしまいました。

寸勁を打つ時は十分力を加減しなくてはいけません。
想像上ではいくらでもパワーが出せる感覚があるからです。

力は有限ですが、勁は無限だからです。

決して拳を振り被ることなく、
力を入れることなく、
瞬間的に目に見えない力に突き動かされ砲弾の如く拳が発射されます。

なぜこのような打ち方が出来るのか解りません。

それもそのはず、考えて打つのではなく、
膨張した丹田のエネルギーが
一瞬の意識でトリガーが外れ気が発射されるような感じだからです。

「打つ」ではなく「外す」という感覚です。

かなり恐ろしいパンチです。

寸勁、またの名をワンインチパンチとも呼びます。

これら浸透する力を浸透勁(しんとうけい)と呼びます。

とまあ、こんな風に説明してもやっぱりよく解らないと思います。
煙を掴むようなもので、実態がないからです。
結局、実際に体験してみるしかないのです。

因みに私は楊式太極拳で使う抽絲勁を立禅と套路で鍛えました。
寸勁は三体式站椿功と五行拳で鍛えました。(まだまだ未熟ですが)

突きの練習は一度もしたことがありません。
突くために突く練習をせずに、ひたすら立つ練習と歩く練習をしました。

その時に、美しく動こうとか、
きれいに動こうとか、
派手なパフォーマンスをやろうとか、

そのような自意識や他意識等の雑念があると勁力は遠のいていきます。

これは私自身が何度も経験したことで、
他意識(自己顕示欲や承認欲求等)があると確実に勁力が落ちます。

そもそも「無」とは雑念のない状態です。
これらの勁は間違いなく無の状態から発せられます。

太極拳が動禅と呼ばれる所以が解ります。



2023年3月2日木曜日

単鞭が片方しかないのはなぜ?

先日ある会員さんにこんなことを尋ねられました。

「なんで単鞭って片方しかないんですか?」

私は即座に「全く必要がないから」と答えました。

そもそも単鞭の技をこれまで何度も使ってきて
「逆もあったらいいのになぁ」と思ったことがありません。

ここで思い浮かべるのがお箸です。

左利きの人は例外として、
左手で箸を持って右手で茶碗持って食べたいと思うでしょうか?
弓を構える時も右手で弓を持ち右手で矢を放ちます。
ギターを抱える時も左手で指板を抑え右手で弾きます。

単鞭で言うなら、左手が開掌の方が何かと応用が利くし、
鉤手は圧倒的に右の方がいいですね。
左手だとイマイチパワーが出せません。

それに「掌=受け、拳=突き」という考えも捨てた方がいいでしょう。
逆でもいいのです。
単鞭も左右の手はそのままで、掌で捌き鉤手で打つという用法もあります。

こんな風に太極拳の動作に疑問を持つことはとても大事だと思います。

ただ与えられたものをそのままやるだけでは
太極拳を100%楽しむことは出来ないし、
勁力をつけることも出来ません。

因みに発勁とは腕力で出す力とは違います。

流派によって捉え方は様々でしょうが、発勁の発動源は丹田であり、
丹田が動けば体内の重さが体の中で揺れ動き、それが波のように相手に伝わっていきます。
実際に比べてみれば体に受ける感覚は明確に違います。

長年太極拳を研究すればするほど、
本当によくできた武術だと感嘆するばかりです。