2022年2月11日金曜日

毒針を持った太極拳

当会では稽古にきたら自主的に準備運動をしてもらっています。
「準備運動は絶対必要か?」と言えば必ずYesとは限らないと思っています。

どういうことかと言いますと、
常日頃から内家拳(太極拳等氣のパワーを用いた武術)を意識した動きが出来ていれば、それがすでにウォーミングアップや内家の鍛錬になっているわけで、更にウォーミングアップする必要はないと思う訳です。
(もちろん稽古以外の時に太極拳スイッチを切っている人はしなくてはいけません)

たまに稽古前にストレッチをしている人を見かけますが、
これもまた必要ないと言えば必要ありません。
体の柔軟性がなくなったからと言って体が弱るわけではありません。

それに伝統太極拳で腕や脚を伸ばすことは最もしてはいけないことです。
理由は体内の氣の流れをつくるのによろしくないということと、
武術的に手足をピンと伸ばす行為は怪我の元になるからです。

しなくてはいけないことは「伸ばす」ことより「弛める」ことです。

生徒時代、ある太極拳教室に通っていた時、稽古前に腕立て伏せをしている人がいました。
「なんのためにしてるんだろう?」と思いました。
確か他の武道をされている人だったと思います。

因みに師が柔軟運動や筋トレをしている姿を一度もみたことがありません。
しかし師は人間離れした強さをお持ちです。
円を描くような柔らかい動きと相まって、鋼のような強靭な体、
そして大砲のような威力の発勁。

しかし着替えの時に見た上半身は胸板が厚いわけでもなく、腕が太いわけでもなく、どちらかといえばひょろっとされています。
ほぼ私と同じような体系でしょうか。

どこにも鋼のような分厚いものは見当たりません。

不思議です。
まるで目に見えない鎧をまとわれているような感じです。

これが私が知る内家拳です。

鋭い突きやパワフルな蹴りが出来たらとてもカッコイイです。
しかし、それをミットやサンドバッグではなく、鉄壁や鉄柱に対して出来るでしょうか?

それに、そのパワフルな突きや蹴り、何本打てますか?
10代20代ならそれなりに打てるでしょうが、
息が上がってしまったらもう闘えません。(体験談)

本当の内家拳を知ったら、いきなり暗黒の宇宙に放り出されたかのような恐怖を感じます。
いかなるパワーもブラックホールに吸い込まれてしまうようなイメージでしょうか。

少なくとも私はそれを何度も経験してきました。

太極拳の強さは柔軟性や筋力ではないのです。
一言で言うなら空間(宇宙)との融合です。

ひらひらと優雅に舞っているかのように見える太極拳。
もしかしたら、そこには毒針が隠されているのかもしれません。