その後気が付いたことだが膝の痛みが消えた。
完全に消えた。
結局解ったことは
見栄えの良い美しい演武をしようとすると膝を痛めてしまうということ。
決して競技用太極拳を否定するわけではない。
若い人はどんどんやればよいと思う。
しかし50過ぎてくると、体の中で作られにくくなるものや減っていくものがある。
自然現象でありこれに逆らうことはできない。
50代には50代の太極拳があり、
60代には60代の太極拳がある。
年代と共に変えていくのが自然なことであると思う。
ただ、どんなスポーツにも引退時期があるが、太極拳に限ってはない。
死ぬまでできる。
しかし、それはあくまでも年相応の太極拳を行った場合だ。
悲しいかな男の性というか、
「まだまだ若い奴には負けん」みたいなものがどこかにある。
そして無理をして膝や腰や筋を痛める。
私が考えることは逆。
私が若い人たちに憧れたり妬んだりするのではなく、
逆に若い人たちが憧れる様な
歳を重ねてきたものでなければ出来ないものを見せて行きたい。
私には経験がないが
話を聞く限り華道や茶道に通じるものがあるように思う。
それは若い時にはなかった根気や持続性。
この歳になってくると自己顕示欲や虚栄心もなくなってくる。
それを逆に生かし、地味すぎてやりたくなかったことに専念できる歳になったということ。
私の場合はそれが立禅。
今、禅の世界にずっぽりはまっている。
しかも立禅を行えば行うほど強くなる。
それは決して派手でカッコイイ技が決められるようになるということや、
力強い突きや蹴りが出来るということではない。
技が見えないのに強い。
突きの速度が遅いのに相手を簡単に崩すことができる。
力を使ってないのに何メートルも相手を飛ばすことができる。
こういうことをやるのに適した年齢になってきたように思う。
しかも若い頃のように「若いうちに」というような焦りもない。
死ぬまでにコツコツと積み上げて行きたいと言うような考えになってくる。
私が太極拳から離れられなくなった理由。
私が最初に所属していた会の大先輩が仰った言葉。
「太極拳は棺桶に入る直前が一番強い」と。
これは一般常識を覆すようなことだ。
歳をとればとるほど弱くなると考えがちだが、こと伝統太極拳に限ってはその逆。
因みにここは強調しておきたい。
これは伝統太極拳に限ったこと。
伝統太極拳は人前で演武を披露することを目的としているのではなく、己を鍛えるための太極拳。
鍛えるといっても筋肉モリモリになるのではない。
痩せこけていても強くなる。
そして高齢者にとっての最大の悩みである膝も腰も丈夫になる。
脳も活性化され、若々しくなる。
恐らく太極拳程、高齢者に適した鍛練法なないのではなかろうか?
いずれも私はその生き証人になりたいと思っている。