私が始めて師の太極拳の演武を見た時、
それはまるで踊っているように見えとても武術には見えなかった。
私が思った疑問は、「一体どこをどう使って戦っているんだろう?」と。
いわゆる技が全く見えてこなかったわけです。
一番最初に習う起勢にしても、
次に習う攬雀尾にしても何をしているかさっぱり解らなかった。
人間は経験していないことはわからないのである。(当り前のことだが)
しかし実際師に技を掛けてもらうと、何が何だかわからないうちに飛ばされていたり床に叩きつけられたりしている。
この時に太極拳への興味が大きく膨らんだ。
いわゆる、太極拳は技が見えないのである。
私は師に尋ねた。
「太極拳ってどこを使って戦うんですか?」と。
その答えは「体全部」とのことだった。
ますます私の太極拳への興味は増すばかり。
前回ブログに書いた通り、伝統楊式太極拳には37の技で構成されている。
しかも一つ一つの技には3~5つぐらいの用法がある。
仮にひとつの技に対し3つで勘定しても111の技があるということになる。
「そんなにはとても覚えられない」と思うだろう。
しかし、套路を練りながら研究を進めていくと、ある法則が見えてくる。
それが太極拳八法と言われるもの。
実は太極拳の技は8つの動作でつくられている。
それを相手の動きに対し対応するためたくさんの技があるのである。
因みに太極拳で攻撃に使う部位はどこだろう?
手ひとつとっても、指先、掌、拳、手の甲、手首
5種類?
いいえ。
指先ひとつとっても四本の指をまっすぐ伸ばした状態で突く動作、
二本指で突く動作、
それに指をつまむようにして指先で突く動作など状況に応じ様々に変化する。
掌も拳も同様。
あとは、肘、肩も使う。
いや、一の腕も使うし二の腕部分も使う。
いわゆる腕全体が武器といことになる。
腕は自分の意識によって槍にも剣にも棍にも鈍器にもなる。
あとは、腰(尻)、膝、踵、つま先、土踏まず、足の小指側側面、
それに頭も使う。
直接攻撃には使わないが、腹や胸、背中を使うこともある。
つまり体丸ごとが武器ということになる。
だから套路を練る時は体全体を使わなければいけない。
因みに太極拳ではこれらの部位を強くするために外面的な鍛練は一切行わない。
それなのに、意識によって体が固体にも液体にも気体にも変化させることができる。
その鍛練法とは?
それが気功。
気功は健康やリラクゼーション効果だけ得られるのではない。
それを目的で行うのは大いに良いことだし、私もそれを目的に行っている。
しかし、それは同時に体を強くすることができるのである。
因みに武器を持たずに戦おうとすることを丸腰という。
しかし太極拳ではその丸腰こそ無敵なのだ。
無論、銃の球を跳ね返したり避けたりすることはできないが、
危険を察知する力を養うことはできる。
こんな風に考えると
太極拳程あらゆる効果が得られる武術は他にないのではなかろうかと。
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いろいろ語ってしまったが、あくまでもこれは私が体験したことであり、
私自身が体全体を自由に変化させ技を使えるわけではない。
あくまでもそのための修行を今行っているところである。