私が教わった河北派の形意拳では、
常に足裏が地面に対して平らであることと教えられた。
これを平起平落(へいきへいらく)という。
つまり、足を上げる時も下す時も足裏が地面に対して並行であること。
かといってすり足を使うわけでもない。
これが結構難しい。
普段、人間はつま先で蹴りだし踵から着地して歩いている。
二本足で歩くようになってからずっとだ。
その習慣があるため、最初はなかなか苦労する。
いずれも、なぜ平起平落なのか?という疑問にぶつかる。
失敗も含め鍛錬を続けるうちに、
こんな答えが見つかった。
形意拳では独特の歩法を使う。
跟歩(こんぽ)と言われるもの。
すーっと滑り出すように前足を出し、後ろ足がそれについてくるのがそうだ。
前に体を進める時に大事なことは太極拳と同じく脱力。
脱力しているので当然、後ろ足が着地した時にその足に体重がのる。
もしこの時に踵から着地するとどうなるか?
この時に大事なことは、なにがなんでも腰を反らせず真っ直ぐにしておくこと。
そうしなければ、ドスンと踵から着地した衝撃で腰に体重がかかり腰に負担をかけることになる。
いや、実際は体重以上。
浮いた足を着地させるわけだから、落下の重力が働いている。
調べて計算してみないと解らないが、
少なくとも体重の数倍の重力が働いていると思われる。
もし、この着地地点に体重計があれば壊れてしまうかもしれない。
だから銭湯などに置かれている体重計には「静かに載りましょう」と書かれている。
河北派の跟歩では後ろ足が床に着いた時バンッと音がする。
落下した音だ。
いずれも、着地する時は足裏全体で着地しないと、
踵、膝、腰に負担を掛けてしまうのは力学上でも明確だ。
因みに、この落下する力を利用して打っているのではない。
脱力しているから落下するのであり、それは二次的に起きていること。
簡単に言ってしまえば、河北派形意拳は人間大砲のようなもの。
拳で打つのではない。
拳で打たないから体全体の重さが拳に加わる。
これが相手にヒットすればひとたまりもない。
拳が相手に当たっているのに、腕を鍛えずして、腕を鍛えた者以上に破壊力を発揮する。
これこそが河北派の驚異的なパワーだと思う。
先日、公民館イベントで、虎形拳と馬形拳を披露したのだが、
その跟歩の衝撃で相手が勢いよく6~7メートルぐらい吹っ飛んだ。
勢いもつけず、ちょっと踏み込んで打っただけなのだが。
楊式太極拳は受けない。
河北派形意拳は打たない。
どちらも見た目の派手さはないが恐ろしい拳法だと思う。