当会で毎回行っている抜筋骨は太極拳を始める上でとても重要。
筋肉と関節をゆるめなければなにも始まらない。
なぜなら太極拳は「ゆるむこと」と「柔らかくなる」ことが求められるから。
まず、ゆるむことに関して。
逆に筋肉を硬くすると気血の巡りを阻害する。
動きが遅くなる。
十分な力を出せなくなる。
普通なら反対ではないかと思うだろう。
しかし、〝過ぎる”筋力は太極拳では役に立たない。
極限まで体をゆるめると感じるのは体の重み。
ベッドに入り眠りに入る瞬間完全脱力状態になる。
力が入っていては眠りに入れない。
いずれもこの状態の時、体の重みを感じる。
すーっとベッドに埋もれていくような感覚になる。
太極拳はこの重みを利用する。
そしてこの重みを感じるようになるためには、力を抜かなければならない。
これが勁力(筋力ではない力)を上げるためのステップとなる。
次に、関節をゆるめること。
関節をゆるめるとはどのようなことだろう?
これは柔軟性のことではない。
太極拳の歩法は「車輪の如く」と言われるが、車に例えて考えてみよう。
車は大変乗り心地が良い。
なぜだろう?
自転車に比べ圧倒的に快適だ。
長時間乗っていても疲れない。
その理由は、4つの車輪に独立したサスペンションとショックアブソーバーがあるからだ。
サスペンションは衝撃を和らげる。
ショックアブソーバーは跳ねを抑える。
だから道が凸凹でも快適な走りができる。
人間で言う関節をやわらかくするとはこういうこと。
太極拳で大事なのは立身中正。
背筋をピンと伸ばして直立させて動く。
そのためには関節を柔らかくしなければならない。
もし関節を硬くすれば、姿勢は左右前後に傾くだろう。
直立させる理由は、天と地の軸を感じるためであり、
これにより上に引っ張られる力と下に沈む力を同時に感じることができる。
太極拳ではこの状態こそが無敵の状態。
私は稽古の時にうるさいほど姿勢を正すよう指導するが、
太極拳で一番大事なのは型を覚えることではなく姿勢を正すことだからだ。
出歩如猫(しゅつほじょびょう)と言われるが、
太極拳の歩き方は猫のように歩く。
猫の歩き方を観察していると、実に関節を柔らかく使っている。
関節を柔らかくするということは、前屈や開脚が出来ることではない。
やわらかく動けるかどうかということ。
こうして柔らかく動くことによって、始めて天地の軸を感じることが出来
それが安定した動きへとなり、気のパワーを十分に流すことが出来る状態になる。
型を正しく行おうとする前に、
十分体をゆるめ姿勢を正して真っすぐ立つ。
これは英語で言えばアルファベットを覚えるのと同じぐらい重要。
当会が稽古の初めに筋トレやストレッチではなく
抜筋骨と立禅を行う理由である。