こうして私の中で、楊式太極拳=気持ちいい という図式が出来上がりました。
先生の動きが海の中でゆらめく海藻のようにみえたり、
手の動きが魚のひれのように見えたり。
実は私は鳥と海洋生物が大好きで、ずっと見ていても飽きません。
鳥は鷹、海の生き物ではマンタが好きです。
太極拳の動きはそれらとすごく似ています。
とにかく気を操るようになるためには完全に力を抜かなくてはなりません。
そうこうしているうちに、仕事の都合で遠方に引っ越さなければならなくなり、しばらくは近くの公園で一人で練習してたのですが、それでは物足りなくなり、その後、近くでみつけた太極拳教室に通うようになりました。
そこでは今まで教わった太極拳とはうってかわって、最初にストレッチや筋トレを十分行い、逆に気功はありませんでした。
少林拳のような突きや蹴りの練習もたっぷりとやらされ、慣れない私はヒーヒーとうめき声をあげながらの練習になりました。
そういえば低い姿勢をとる下勢(かせい)や足を高く上げる踵脚(とうきゃく)、それに回し蹴りをしながら足の甲で手を叩く轉身擺蓮(てんしんはいれん)等は、その技をきちんと完成させるために別の練習が必要だろうなと前々から感じていました。
ここではそういう練習を重視していたわけですね。
しかし決定的に違ったのは極めて正確なフォームの要求と、脱力が許されないことでした。
最初に習った伝統拳ではフォームはあまり重視されませんでした。
いわゆる戦術としてのフォームが出来ていればいいのですから。
又、伝統拳では気の通りを良くするために脱力しなければなりませんでしたが、今度はそれがタブーで、常に手や足に緊張感を持たせしっかりと正確なフォームをつくらなければなりません。
ここで素朴な疑問が沸いてきます。
武術的に、経路(気の通り道)を塞いでまで正確なフォームをつくる必要が本当にあるのだろうかと。
この太極拳が制定拳であることを後に知ることになります。
(続く)