太極拳というと、そのゆっくりとした動きから、お年寄り向けの健康体操というイメージかもしれないが、とんでもない。
たしかに、健康目的の太極拳であればそうだろうが、少なくとも武術として習ったことのある私からすれば、太極拳はメチャメチャ速く、そしてとてつもない破壊力を持つ。
実際にスピード比較をしたことはないが、その繰り出す拳の速さは同じ年代の人の長拳のスピードとは比にならない。
なぜだろう?
私もまだまだ未熟なのではっきりしたことは解らないが、多分力を使っていないからだろう。
普通に考えれば力を使った方がスピードが出そうに感じるが、今私が習ってる伝統拳の師は、そのひょろひょろの体型からは想像できないほど、拳が飛び出すと速い。
目の前に拳が来るまで全く見えないのだ。
寸止めしてもらっていなければ、どうなるかと考えると恐ろしい。
太極拳の破壊力は打撃力ではない。
気のパワーが頸へと変わり、その威力が拳を通して、相手の体を貫通させることができるという。
なので、実際はスピードはいらないぐらいだ。
その威力を初めて目の当たりにしたのは、東京で習っていた頃の団体の道長の模範対打。
道長はマイクを持ちながらその拳の威力の説明をしており、普通に突っ立ったままマイクを持ってる反対の手で相手の腹にふわっと拳を入れた。
今のは予行かな?と思ったらとんでもない。
そのまま相手は気を失って倒れてしまった。
拳から頸が発せられたことで、いわゆる外部を叩かれたのではなく、内部を叩かれたのだ。
もし手加減せずに100%の力で頸を発したなら、内臓破裂で即死なのだそう。
気は美容、健康に素晴らしい効果をもたらすが、使い方によっては殺人兵器にもなってしまうという恐ろしさ。
ところで、私は水が好きだ。
水は人間にとってなくてはならないものだし、水は人間にとてもやさしい。
人間の体の60%は水で、水を飲むことで健康をもたらし、そして美しさも与える。
どんな形にでも変幻し、気化すれば重い蒸気機関車を動かすこともできるし、猛烈な勢いで噴射すれば鋼鉄に穴をあけることも出来る。
なんだか、太極拳で使う気(頸)にとても似ている気がする。
やさしいけど怒ると怖いのだ。